人類学者・奥野克巳氏が定期的にフィールドワークを行っているのが、マレーシア・ボルネオ島の奥地に暮らす狩猟採集民「プナン」です。彼らの結婚観や恋愛観は、私たち現代人の常識とは大きく異なります。ですが、その違いを知ることで、結婚や家族の本質に改めて気づかされることがあります。

 

【ボルネオ島の狩猟採集民】現代日本と全然違う結婚観

 

結婚という「制度」が存在しない社会

 

プナンの人々にとって、「結婚」は制度ではなく、あくまで恋愛の延長です。男女は自然な流れで関係を築き、子どもが生まれればともに子育てを始め、気がつけば“家族”ができている。結婚式などの儀式もなく、関係が崩れればそのまま離れて別の相手と新たな関係を築く——これがごく当たり前の営みとして繰り返されているのです。

日本では離婚といえば、財産分与や親権の問題など複雑な手続きが伴いますが、プナンにとってはそういった概念自体がありません。彼らの社会には貧富の差がほとんどなく、財産も食料も蓄える文化が存在しないため、トラブルが起こりづらいのです。

 

地域全体で子育てを担う仕組み

 

「簡単に離婚して、子どもはどうなるの?」と疑問に思う方もいるでしょう。しかしプナン社会では、子育ては親だけの責任ではなく、地域全体で担うもの。自分の子どもだけでなく、他の子どもを養子として育てることも珍しくなく、遺伝的な繋がりにこだわる意識も希薄です。

このような共同体的な子育てのおかげで、育児放棄やネグレクトといった問題はほとんど発生しません。誰の子でも、皆で育てる——それが当たり前の文化なのです。

 

富を独占せず、分かち合うことがリーダーの条件

 

プナンの社会には、「ビッグマン」と呼ばれるリーダーが存在します。ビッグマンは富や食料を惜しみなく皆に分け与える人であり、自己中心的な振る舞いをする者はリーダーとして認められません。

このような価値観は、私たちの「競争社会」とはまるで逆です。現代社会では、成功とは多くを手にすることだとされがちですが、プナンでは「どれだけ他者と分かち合えるか」が人としての評価に直結するのです。

 

「ありがとう」「ごめんなさい」も存在しない?

 

奥野氏の著書によると、プナンの言語には「ありがとう」や「ごめんなさい」という表現が存在しないそうです。一見すると驚きですが、これは助け合いや失敗が前提の社会では「感謝」や「謝罪」という行為そのものが必要とされないということかもしれません。

 

幸せのかたちはひとつじゃない

 

プナンにはインターネットもゲームもありません。けれど、貧困も格差もなく、子どもが社会に見捨てられることもない。文明国に生きる私たちが「進んでいる」と思っている社会の在り方が、果たして本当に幸せにつながっているのか——ふと立ち止まって考えさせられます。

トラスト探偵事務所茨城