探偵の仕事にはさまざまな現場がありますが、中でも基本中の基本、かつ最も神経を使うのが「徒歩尾行」です。対象者に気づかれずに後を追うためには、常に距離感を保ち、周囲の状況に応じて臨機応変に動く必要があります。

今回は、実際の調査員が経験した「徒歩尾行」の現場の一端をご紹介します。

 

探偵の「徒歩尾行」──ある調査員のリアルな経験談

 

距離感の“強弱”が命

 

徒歩尾行において最も重要なのは、「強弱のつけ方」です。つまり、近づくべき場面と、距離をとるべき場面の判断力です。例えば、繁華街やイベント会場など人通りが多い場面では、対象者との距離を詰めてもしっかりとカモフラージュできます。一方で、閑散とした住宅街では逆に距離を取り、視線や足音にも細心の注意を払わなければなりません。

実際、満員電車では対象者のすぐ背後にピッタリとくっついて立つこともあります。「あなたのすぐ後ろにいるのが探偵かも」——これは決して冗談ではないのです。

また、車両の混雑状況に応じて、隣の車両に移動して尾行を続けることもあります。視線を遮りながら、絶えず観察と位置取りを調整する。まさに「動きながら考える」ことが求められるスキルです。

 

浮気調査の基本ルート

 

浮気調査では、対象者と浮気相手の「接触」→「ホテル入室」→「退室」→「別れた後の尾行」といった一連の流れを、すべて記録に収める必要があります。

ホテルの出入りをしっかりと撮影した後は、浮気相手の自宅を特定するために、今度は相手を尾行することになります。ここでも「徒歩尾行」の技術が活きてきます。

電車に乗って最寄り駅で降りたあと、突然自転車で移動しはじめる——こうしたケースは珍しくありません。

 

自転車尾行と「苦い経験」

 

問題はここからです。徒歩で尾行している調査員にとって、自転車に乗った相手を追うのは容易ではありません。特に坂道や夜間、人通りの少ないルートでは難易度が急激に上がります。

実は私自身、かつて自転車に乗った対象者に追いつけず、見失ってしまった苦い経験があります。ホテルを出た浮気相手を追っていたのですが、突然、駐輪場から自転車を取り出して走り出したのです。

私は必死で走ったものの、あっという間に引き離されてしまいました。その時の悔しさといったら、今でも忘れられません。

 

「走れる探偵」への変身

 

その一件以来、私は心を入れ替え、体力づくりに本気で取り組むようになりました。毎日のランニングを欠かさず、食生活も見直し、結果として体重は10kg以上減少。健康的な体を手に入れると同時に、「走れる探偵」として自信を持って現場に立てるようになりました。

今では、たとえ自転車で移動する対象者でも、スニーカーさえあればなんとか追いつける距離であれば、全力疾走で対応できます。

 

尾行は“職人技”

 

探偵の徒歩尾行は、ただ後ろをついて行くだけの単純なものではありません。周囲の環境に応じて判断を下し、身体能力や忍耐力、観察力のすべてが試される現場です。

私たち探偵にとって、尾行の失敗はそのまま調査の失敗に直結します。だからこそ、どの調査員も真剣に尾行技術を磨き、現場での判断力と体力を高め続けています。

「探偵なんて、ただ隠れて写真を撮ってるだけ」と思っている方がいたら、ぜひ知っていただきたいのです。私たちは、真実を明らかにするために、日々走り続けているのです。

トラスト探偵事務所