「デス・ゾーン」という本が人気で版を重ねています。無酸素登頂で有名だった登山家・栗城史多さんにずっと側にいたライター河野啓さんの手記です。
ご存じの通り栗城さんは8回目のエベレストの登頂で命を落としています。
栗城さんは、その前から無謀な挑戦を繰り返して、凍傷で指を失っていました。
栗城さんの登山は、あえて無謀なことに挑戦して、世間の注目を引くのが目的だったように見えます。そのためなら命を落としても構わない。それが栗城さんの本心だったのではないでしょうか?
一方、同じ無酸素登頂を成し遂げながら、目標はあくまで生きて還ってくることと公言し、五体満足で生還している人物が小西浩文さんです。
小西さんと同じように登山のプロであり、同じような技術と経験と知識を持ちながら
命を落とした人、命を落とさないまでも他の事情で山から去った人もいるそうです。
その生死を分けたものはなにか?
小西さんはあらかじめ危機の予兆を察知できる「危機察知能力」が大事だと説きます。
小西浩文著「生き残った人の7つ習慣」から危機察知能力を身につける秘訣を紹介します。
気の緩みが事故を引き起こす
小西さんは八ヶ岳で行われた登山教室で、落下事故を起こす参加者をあらかじめ予見しました。小西さんの予測通りその人は岩場から転落します。
なぜ小西さんは参加者の落下をよむことができたのか?
それは参加者が目の前のことに集中せずに、目前のゴールの方を見ていたからです。
それは小西さん自身もパキスタンのカラコルム山脈のブロード・ピーク無酸素登頂に成功した直後の下山途中で、雪渓にある深い裂け目に落ちてしまいました。
登山教室の参加者は目的地を目前にして、小西さんは目的を達成した後で、気持ちが緩んだのが原因で危険に陥りました。
では、どうすれば気の緩みが防げるのか、小西さんは執着を離れて、目の前のことに集中するべきと説きます。
目標を持つものは大事ですが、それに執着してしまうと人は危険に陥ります。
栗城さんは無酸素登頂に執着するがあまりに命を失ったのかもしれません。
焦りとおごりをコントロールする
警視庁の山岳事故の統計では1991年には219人だったのに、2016年には1116人に急増しており、遭難事故に占める道迷いの割合の38%になると言います。
登山の道迷いの被害がこんなに増えたのは登山道の標識の不備もさることながら、登山者の心のマネジメントが不十分だからと言います。
登山者の気の緩みに加え、焦りが道迷いを生むのです。
ビジネスでチームで目標を達成するためには、自分だけでなくまわりのチームにも焦りを与えるのは禁物です。
しかし、焦りとは逆にあまりにも仕事に馴れすぎて、仕事を舐めてしまう驕りも禁物です。
驕りと焦りに注意しましょう。
危機管理は想定外という概念を忘れてはいけない
いくら危機を想定してももしも想定外が起きた場合はどうすればいいのでしょうか?
それに対しての小西さんの解答は非常に厳しいものでした。
想定外の言葉で説明されるような危機の90%以上が、想定内の危機であると言うのです。
となると、コロナ禍で苦境に陥っている飲食業や観光業、航空業でさえも、想定内ということとなり自業自得なんでしょうか?
コロナ禍により倒産した会社は、コロナが直接原因で経営が悪化したのはもちろんですが、その以前から経営状態が悪くて、前もって経営が悪い状況になっていたと会社が多いようです。
2018年に起き甚大な被害を起こした西日本豪雨でも、実は50年前に同じような水難事故が起きていました。被災地域に家を建てたのはその事実を知らない土地の人だったのです。2011年に起きた東日本大震災で起きた大津波も1600年代に同じクラスの津波が起きていたのです。
ものすごく気の長い話になりますが、世界的なウィルスで騒動になるのは歴史上、人類は何度も経験しています。しかし、ごくたまにしか発生しないのでついつい忘れて、気が緩んでしまいます。
コロナでも志村けんさんや岡江久美子さんのように容態が急変して亡くなった人もいるのに、何度も緊急事態宣言が来ても、感染せず、あるいは感染しても大して症状が出なかった場合、「正常性バイアス」が働いて、「大丈夫だろ」と危機の過小評価と事態の楽観視が働きどんどん状況が悪化しています。
亡くなる前の登山家の3つの異変
小西さんは遭難で亡くなった登山家を何人も見てきて、その特徴が大きく3つあると言います。
1.心ここにあらずでボーッとしている。
2.目がキツネのようにつり上がって、言動も乱暴になる。
3.透明感が出てくる。
2.の目つきがかわり、言動が変わるのは栗城さんが亡くなる直前に残された動画でも同じような兆候がありました。
3.は小西さんが尊敬する登山家と最後に会った時に体験したことで、彼の身体が透明になったように見えたそうです。それから3週間後、アラスカで登山家は亡くなったと言います。
登山家にとって失敗は直接死につながりますが、とすれば生きているだけで、凄いことなのかもしれません。
登山家の危機察知能力を少しでも身につけたいものです。