車の中でアンパンに牛乳で刑事二人組で、容疑者の住居から監視する。
昭和の刑事ドラマの張り込みではそれが定番でした。
体力勝負の仕事ですが、現実の探偵の張り込みはもっと過酷です。
探偵のお仕事の裏側を紹介します。

 

 

本当はこわい張り込みの話

 

現実の調査の現場で車の中で張り込めるのは快適な時ですが、実際は【立ち張り】と言って、ずっと立ちっぱなしで張り込みをするケースがほとんどです。
その場合は、雨が降ろうと、雪が降ろうと、ずっと外で立ちっぱなしです。
その間、水分補給はミネラルウォーター。
コーヒーや日本茶は利尿作用があるのでNGです。
トイレの回数をできるだけ減らすためです。
食事は1日2回に抑えて、お弁当でなくパンだけです。
お弁当だと目線が下がるからです。
目線を下げているうちに調査対象から逃げられてはもともこもありません。
ベテランの探偵だと24時間寝ないで張り込むのは当たり前、36時間以上寝ずに張り込むことも……
とある探偵の弁によると、ただ立っているだけなら眠くなるが、目的を持って監視していたら眠気が来るどころか、眠れなくなってしまうのだとか。
ある種の特別な緊張状態になるのかもしれません。

 

張り込みの仕事で一番きついこと

 

張り込みで一番きついのは実は眠れないこと、立ちっぱなしであることではありません。

それは近所の人の視線です。

人通りが多い場所なら見慣れぬ第3者がいても不自然ではありませんが、
問題は郊外の住宅街など、知らない誰かが近所をうろうろしていたらすぐに不審に思われます。

「この人怪しいなあ……」

という近所の住人の警戒心に満ちた冷たい視線に耐えながら立ち張りを続けるのは苦痛です。

新人探偵が一番に根を上げるのがこの張り込みでの精神的苦痛だと言われています。

ベテラン探偵によると、年を追うごとに立ち張りの時の近隣者の態度が冷たく厳しくなっていると言います。

郊外での無差別殺人など、突発的な凶悪事件が頻発しているからでしょう。

聞き込み張り込みに有効な架空のストーリー作り

見知らぬ人間が近所でじっと立っていたら不気味です。

不審者と思われても仕方がありません。

近所の人に交番に通報でもされたら、調査どころではありません。

そこで、ある探偵は聞き込み張り込みの時には架空のストーリーをこしらえて、近所を立ち回るのに不自然じゃない設定の人物になりすまします。

刑事だったら、バッチを出してどうどうと聞き込み張り込みをすればいいでしょうが、探偵は民間人なのでそんなワケにはいきません。

ちょっと古いドラマで恐縮ですが、松田優作さんの「探偵物語」のように、堂々といかにも探偵という服装で近所を嗅ぎ回っていたら、調査対象に張り込みがバレてしまいます。

近所を歩いてもおかしくない、架空の職業を装えば、近隣の目を逸すことができます。

空地が多い地域なら、アパート経営をすすめるセールスマン。
古い住宅が多い地域ならリフォーム業者や外壁塗装業者など。
名刺もしっかり用意しておきます。

しかし、今ではネットで本当にある会社か調べるのは簡単です。
あくまで、調査をするための架空の姿なので、あまり近所の人に近づきすぎてもボロが出てしまいます。

架空の設定は他者の目をそらす意味もありますが、もっとも大事なのは張り込みをする心理的なストレスを探偵自身が軽減する目的が一番です。

 

避けて通れない職務質問

 

立ち張りをしていて避けて通れないのが、警察による職務質問です。
熱心に張り込みをすればするほど、目立ってしまい警察に職質される確率が上がります。
しかし、ここでひるんでは調査目的を達成できません。
探偵としては避けては通れない関門です。
職質をされない張り込みがいい張り込みとされる向きがあります。
プロの探偵から見ると、職質されない張り込みは手抜きの張り込みなのです。

ちょっと贅沢な一室を借りての張り込み

 

「張り込み」というタイトルの映画があります。
日本映画でもハリウッド映画でも同じタイトルなんですね。
日本版では旅館に泊まって、ハリウッド版では向かいのマンションの一室を借りての張り込みです。
探偵の張り込みとしてはちょっと贅沢でしょうか。
警察ならば、全て経費になりますが、宿泊費や家賃が全て依頼主の負担になってしまいます。
相当な資産家からの案件じゃないと難しいでしょう。
探偵にとっては、立ち張りの心身の消耗と比べると天国のような環境です。
ただし、調査が長期化するため、退屈をいかに凌ぐかが問題です。

まとめ

 

今回は探偵の仕事のうち張り込みを紹介しました。
映画やドラマと違って、あまりにも地味すぎる仕事かもしれません。
地道な仕事を積み重ねてやっと調査目的が達成されるのです。
探偵にとってなによりも大事なのは忍耐力と言えそうです。