地域で自営業をするなど比較的時間が自由に使える人が少なくなり、消防団員だけでなく町内会役員など地元で暮らしていても地域のイベントに参加できる人が少なくなっているのは当然でしょう。
しかし、地域によっては根強く消防団は残っており、実はその中でひそかに不正を行う消防団も多いのだとか。
そんな消防団の闇を描いた本が毎日新聞記者・高橋祐貴著「幽霊消防団員 日本のアンタッチャブル」です。
様々な不正が次第に暴かれている今、最後のパンドラの箱と呼ばれる消防団の世界を紹介します。
意外!消防団員はボランティアじゃない
意外に思われるかも知れませんが消防団員は無償で働いているわけではありません。
総務省消防庁は消防団員を非常勤の特別職の身分として年報酬36,000万円、火事場に出動するとごとに1回7,000円の報酬です。
所属する分団によりますが、役職になると十数万円の収入になります。
しかし、危険な火事場に出てこれだけの実入りでは、ちょっと物足りない気がします。
問題なのが「幽霊消防団員」の存在です。
消防団員に給料がもらえるという話があまり出ないのは実際にはもらえていない人が多いからです。
本当は本人の口座に振り込まれるはずの報酬が各支団の口座に振り込まれます。
消防団員は1度入会しても、だんだん活動が億劫になって次第に出なくなる人もあります。
正式に退団届を出して受理されない限り、名前だけは団に所属されることになります。
幽霊団員の報酬は団が横領して、飲み会の経費に使われるのです。
人手不足という名目で入団をすすめますが、相手が継続して団に参加しなくてもかまわない。
むしろ幽霊団員が増えれば増えるほど団の口座にはお金が増えるので、熱心に入団をすすめるワケです。
この幽霊消防団員への報酬の支払いは地域差があるようです。
首都圏や都心部では報酬が手厚い傾向があり、佐賀県滋賀市、兵庫県三田市などは年額1万円代、また岡山県倉敷市や津山市などは報酬が0円のところもあります。
研修と言う名のどんちゃんさわぎ
年に数回行われる研修の名目は「旅行先の火災現場視察」ですが、もちろんそれは形だけ実際は温泉旅行で、夜は飲めや歌えの大騒ぎとなり、コンパニオンも呼びます。
地域貢献の奉仕活動の名目で羽目を外せるので、これがなくては団員もやってられないということでしょう。
不正の内部告発ができない事情
年々、消防団員の数は減少しており、歯止めがかからない今、女性団員が増えています。
三重県のとある都市で消防団に入った女性は目に余る不正を黙っておけず内部告発しました。
団員に支払われるはずだった報酬が一切振り込まれなかったからです。
しかし、処分は手ぬるく、団長が処分されることはありませんでした。
逆に団員に支払われる報酬の管理は団に任せると一筆を書かされ、これ以上、不正を追及できないようになります。
その上、団長からのパワハラが激しくなり、消防団活動のときにわけもなく1時間も正座させられたり、ノートで胸や頭を叩かれたりしました。
あげくにうつを発症し、自治体に提訴しますが、いじめの調査を消防団の幹部に要請。
いじめた側からの調査で証拠が出ようもなくうやむやになりました。
消防団によっては公金の横領や名簿を市会議員の選挙に悪用するなど、やりたい放題の所業があっても、告発したら告発したものがひどい目に遭う世界。
これでは消防団員のなり手が減ってもしかたがありません。
閉塞状況をアプリが救えるのか?
防災ベンチャー企業「タヌキテック」は消防団向けアプリ「Fire Chief」を開発しました。
このアプリがあれば出動指令をプッシュ通知で知らせ、現場情報から消防団員の動態を管理できるツールです。
東京消防庁などが導入の検討をはじめています。
このアプリがあれば誰がいつ手動したのかが一目瞭然で、不正を防ぐこともできて、事務作業も簡単になります。
佐賀県吉野ヶ里町では佐賀大学の学生のベンチャー企業「ロケモAI」が開発した「ロケモシェア」でGoogleマップ内に消火栓を赤い円、防火水槽を青い円で表示できるようになりました。
これが全国に広まれば消火活動も円滑に行えそうです。
消防団活動が改善されそうなIT技術ですが、消防団幹部連中はそもそも年代的に頭が固くて、新しいものを受け入れないタイプが多い。
改善するには技術も必要ですが、考え方の改善も必要のようです。
うまみがなくて真の奉仕活動をする人がいるのか?
全国的にはまだまだでしょうが、
この本をきっかけにこれから消防団の闇が暴かれて行き、不正も次第になくなっていくでしょう。
NPO法人もそうですが、何のうまみもないのに他人に奉仕をする人はなかなかいません。
しかし、全くうまみがなくなった後、果たして、地域の役員、消防団など奉仕活動をする人がどれだけいるかは疑問です。
気候変動で大規模な自然災害が年中頻繁に起きている現代、消防団が地域の救助・避難活動に対する役割は重いでしょう。
昔からの地域活動のあり方を見直して、新しいシステムが構築されるべきときが来ています。