2021年には約10万人を突破 -これが何の数字か分かりますか?
アメリカの薬物の過剰摂取で亡くなった人の数。しかも、禁止薬物ではなく、合法的に使用が認められ、医師から処方された薬物だというから驚きです。
その犠牲者にはあのポップスター、マイケル・ジャクソンやプリンスの名前も……
なぜアメリカはそこまで薬物依存大国になってしまったのか?
その実態を克明に描いた本がバリー・マイヤー「ペイン・キラー〜アメリカ全土を中毒の渦に突き落とす、悪魔の処方薬」です。

 

マイケルやプリンスの命を奪った危険な処方薬物はなぜ広がった

 

医師を抱き込んで危険な薬を合法薬物に――

 

オピオイド=オキシコンチンを全米に蔓延させた張本人のサックラー一族の長男・アーサー・サックラーは医師でありながら、大学時代から医薬品のコピーライターとして薬品会社に雇われていました。やがて、薬品専門の広告代理店の最大手になっていきます。インフォマーシャル=あたかも新聞や雑誌が掲載された記事の体裁をとりながら、実は薬品を売る記事広告を巧みに使って、巨万の富を既に手に入れました。
その上で製薬会社パーデュー・フレデリック・カンパニーを買収し、弟達に経営させます。その会社で売り出したのがオピオイドでした。しかし、オピオイドを代々的に売り出す時点ではアーサーは既に死去していました。
サックラー一族はオピオイドを認可させるために、医療界に大々的なキャンペーンを開始。
医師を抱き込んで、オピオイドには中毒性が低い論文を提出させます。あたかも今までの鎮痛剤よりも「乱用性が低い」というラベルをつけて販売されました。中毒にならないで痛みを抑えることができる夢の新薬として、瞬く間に全米中に広がっていきます。サックラー一族の息がかかった医師達は、痛みを伴う怪我・病気にオピオイドを処方させ、それは「疼痛撲滅戦争」と呼ばれるようになります。同時に無数の薬物依存者を生み出し、毎年何万人もの死者を出す結果に。
サックラー一族は自分達が何を持って巨万の富を得ているかを明らかにしないまま、世界の美術館や博物館に巨額な寄付を行いその名が知られるようになっていました。

 

会社は解散へ――しかし、その爪痕はあまりにも深かった

 

20年間で約50万人の死者を出したオピオイドをめぐり、製造元のパーデュー・フレデリック・カンパニーは、数多くの訴訟を抱えて、米連邦裁判所に2024年までに解散する計画を提出しています。
創業者のサックラー一族は45億ドルの和解金を支払って、今後費用や罰金など一切の責任を免れるとしています。
サックラー一族の悪事も凄まじいですが、国や人を操ることができる広告の力の恐ろしさを感じます。